鬼師がつくる、日本を彩る愛媛の「菊間瓦」

瓦の街として長い歴史を誇る愛媛県今治市菊間町では、愛媛県の伝統工芸である重厚で美しい菊間瓦の製造が行われています。株式会社菊銀製瓦で鬼師として活躍する菊地晴香(きくち はるか)さんは、代々続く菊間瓦の製造に携わっています。現代では需要が減少傾向にあると言える瓦ですが、そんな中で菊地さんが瓦づくりに携わることを選んだ理由や、現代における日本家屋や芸術性の高い建築物には欠かせない瓦が持つメリット、そして菊地さんご自身の今後の展望などについて伺いました。

代々引き継がれる瓦づくりの技術

穏やかな瀬戸内海に面する今治市菊間町は、古くから瓦の街として栄え、街中の至る所に瓦工場が見られます。この菊間町で、日本でも高級瓦として認知されている”いぶし瓦”の製造が開始されたのは約750年も前のこと。菊地さんが所属する株式会社菊銀製瓦は、創業明治12年で140年の歴史があり、祖父、父と代々にわたって家業として瓦づくりの技術を後世に受け継いできました。

菊地さん:菊間町は瀬戸内海沿岸ということで、気候も温暖で雨が少なかったので、乾燥させる工程が必要な瓦づくりには向いていたんですよ。瓦を焼く時に窯にくべる松葉の調達も容易ですし、船での出荷も可能です。

一方で、現代建築では材質・色などが多様で丈夫な屋根材が登場しており、その影を薄めていると言える瓦。そこには若者への認知度が低いこと、また価格が高いことなどが要因となっているようです。

菊地さん:最近の家庭では女性の方が強い傾向もあるので、生活に必要な水回りにお金をかけて、屋根は雨漏りしなかったらいいので一番お金をかけないんです。ですから若い人たちが瓦に触れる機会も減っているように感じます。瓦のような色ではなく、かわいい色の屋根にしたいという声も多いようですし。

時の流れの中で変化していく人々の傾向やトレンド。瓦を製造する会社も減少傾向にあると言います。しかしながら、伝統建築物にも採用されてきた日本の瓦は、現代においても人々を魅了する外観の美しさ、そして存在感を持ち合わせています。

クリエイティブな”鬼師”という仕事

日本の住宅に見られる四角い瓦ではなく、鬼瓦をはじめとした立体的で特殊な装飾瓦をつくる職人のことを”鬼師”と呼びます。学校でも美術の授業が好きだったという菊地さんが鬼師を目指して歩み始めたのは高校卒業後。

菊地さん:私が幼い頃は、祖父が鬼師をしていました。私は子供の頃から勉強やスポーツが苦手で、周りの人たちが持っているような特別な取り柄が自分には無いと思っていたんです。ですからその分、将来は”自分にしか出来ない仕事を、誰にも負けないような事をやりたい”と考えていたので、祖父のつくる瓦を見て、自分もこういう仕事に携わりたいと思うようになっていきました。

高校卒業後に祖父の元に弟子入りし、瓦づくりを一から学んだという菊地さん。熟練の技術と確かな知識が必要になる瓦づくりを習得するには、それ相応の年月が必要でした。

菊地さん:当時は10年ぐらい携わらないと立派な瓦はつくれないと言われました。職人気質の祖父は、私に手取り足取り瓦づくりを教えてくれるわけではなかったので、見よう見まねで覚えましたね。しばらくして、私が23歳の時に祖父が鬼師の仕事を突然辞めると言い出したので、そこから鬼師の仕事が私に代替わりすることになったんです。それ以降、ずっとメインで瓦づくりに携わっています。

女湯(海や波を連想。波に椿が付いてる。)

男湯(山や植物を連想。若葉に椿が付いてる。)

菊地さんは習得した技術と女性ならではの感性を活かし、道後温泉・飛鳥乃湯の露天風呂に設置する間接照明をつくり、賞を受賞。また、瓦と生活雑貨やブライダル関連商品などをコラボさせて新しい瓦製品を生み出す活動では、東京の国立新美術館にて賞を受賞するなど、数々の受賞歴があります。

見直されるべき瓦の良さ

先人たちの知恵の集大成と言える日本の瓦。持続可能な社会の形成がひとつの大きなニーズとなっている現代においても、自然回帰が可能な瓦は時代が求めるコンセプトに則した製品です。その他にも瓦は、屋根材として数多くのメリットを持っています。

菊地さん:瓦は丈夫で長持ちするので、メンテナンスがほぼいらないんですよ。普通に100年、200年は持ちます。瓦を選んで最初にコストをかけることで、通常であれば30年くらいで発生する屋根のメンテナンスといった手間やコストを省くことが出来ます。

その他にも瓦には吸水性があり、夏は涼しく冬は暖かい室内を実現すると言います。また、先の熊本地震では熊本城の瓦が屋根から落ちることで、躯体(くたい)が倒壊するのを防いだという逸話も。日本で長い歴史を持つ瓦には見直されるべきこれら数多くのメリットがあります。

頂く感謝が喜びになる。瓦づくりのこれから

迫力ある鬼瓦や龍、天女をはじめ、家紋やおなじみのキャラクターに至るまで、多種多様な装飾瓦をつくる菊地さん。伝統建築や住宅に採用されてきた瓦ですが、菊地さんはお客さんのニーズに合わせたものをつくり、飲食店や店舗などにも屋根に使用する瓦とは異なる形で納品。瓦を様々な形で活用するケースにも対応しています。需要は低下していると言うものの、現代でもニーズのある瓦。菊地さんは今後、職人として最も力を入れるべきことは”後継者づくり”であると語ります。

菊地さん:職人になるにあたって難しいと思うところは、辛抱が必要な点だと思います。私はもう13年、14年携わっていますが、今でも全然自分が一人前だと思いませんし、いつまでも勉強。終わりがないんですよ。ですから、粘り強さがないとやはり難しいですね。でもそれがやりがいでもあり、楽しさでもあります。

一人前の鬼師や瓦職人になるための修行は、欠かすことができない重要なプロセスの一つ。厳しさのある鬼師の世界ですが、瓦をつくり、お客さんから「菊地さんにお願いしてよかった」という感謝の気持ちを受け取ったとき、そこに大きな喜びがあると語ってくれました。愛媛県の伝統工芸である菊間瓦を後世に伝える鬼師・菊地さんの豊かな感性によって、日本の瓦は今後も進化し続けていきます。

株式会社菊銀製瓦 公式ホームページ