西条の水を守る、自然栽培へのこだわり

「お客さんに喜んで貰えるのが嬉しいし、一番面白い。」

という考えのもと、西条市で無農薬・無肥料の「自然栽培製法」にこだわる首藤元嘉(すとう もとよし)さん。

農家の12代目に生まれながらも、農家を離れて「食」に携わり続けた経験は、今現在行っている自然栽培はもちろん、農業及び地域全体をより良い方向へと変化させる活動にも生かされています。

若者が住みたい田舎ランキング1位に選ばれるなど、急成長する以前から西条市に住む首藤さん。今回の記事では、そんな首藤さんだからこそ持てる目線で見た西条市と、ご自身の想いを伺いました。

自らが手掛ける自然栽培と並行して、多彩な活動を続ける

首藤さんは西条市で、農薬や化学肥料、動物性有機肥料などを一切使用することなく、完全無農薬による自然栽培によってお米を作っています。

西条市南部に連なる石鎚山系から流れる豊富な水、そして降り注ぐパワフルな太陽と、養分に富んだ土の力のみで作られるお米は言うまでもなく一級品。

自然栽培で作られたお米は”お米”そのものとしてだけでなく、お米を自社で加工した”甘酒”や”玄米シリアル”としても提供し、多くの方々に人気を博しています。

「野菜も作っていたんですが、甘酒のヒットをきっかけに”米だけ作ろう”と決めました。それで全部米にしたんです。また、米作りが自分の性格にも合っていたので良かったです。」

農作物の育成プロセスにおける世話や手間の掛け方などは、それぞれの性格に合った農作物があるという首藤さん。一気に育て、そして一気に刈り取るお米は、自分の性格にフィットしていたと語っています。

そんな首藤さんですが、現在の自然栽培に至る背景には、生まれ育った”環境”と”食”に携わった経験が深く関係しています。

生まれ育った農家という”環境”、そして縁の深い”食”に関わる仕事

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農家に生まれ、父親が農業に携わる姿を見て育った首藤さんですが、意外にも首藤さんが農業を始めたのは、他の会社に勤めた後だったそうです。

「農業を始めたのは高校卒業後すぐではないんです。高校を卒業して、10年間ほどは家を出ていました。ずっと外に勤めに出ていたものの、農業を見て育ったというのもあり、仕事をしていても常に”どこか地に足が着かない”という感覚がありました。」

首藤さんは高校卒業後、農業に関係なく、縁があったという”食”に関する仕事に従事したそうです。

「勤めに出ている間は、飲食業に携わっていました。居酒屋に勤めていましたが、そのうち料理を盛る器を作るようになって。滋賀の信楽と京都で焼き物を学び、その後地元に帰ってからは自宅に工房を構え、焼き物をしながら船の中の厨房で働きました。」

接客も大好きだったという首藤さん。

料理の現場や食器づくりなど、”食べることに関わる仕事”というテーマを通してお客さんに喜んでもらい、お客さんがまたお店に訪れてくれることで”ありがとう”のやりとりができる。それが首藤さんの”喜び”だったと語っています。

この”喜び”を自然栽培に見出すことになる首藤さんですが、農業を始めたのは35歳の時。

「西条に帰っても、最初は父親が農業をさせてくれなかったんですよね。”無農薬で農業なんかできるわけがない”というのがその理由でした。」

その後首藤さんの父親は、農薬の薬害が原因で体調を崩すことになります。

首藤さんは、このタイミングをきっかけとして、父親が手掛けることができなくなった農業に携わるようになります。

若者が集まる西条。”農業”は誰しもが自分に合ったやり方を見つけられる

近年、移住して農業を志す方が増えていますが、農業に向いている人材について首藤さんはこう語ります。

「農業は”百姓”って言いますよね。百の事ができなければなりません。大変ですが、その分誰しもが自分にあったやり方を見つけられる仕事だと思います。」

農業の間口は広いと考える首藤さん。現在西条市でも20代や30代の若い世代で、移住して農業を志すという人も多いそう。

農業に携わるにあたり、自分自身で様々な行動をし、掘り下げて課題を見つけるということの大切さも語ってくれました。

「農業をする人でも、自分の目の前の事をやるだけの人は、課題が見えてないんじゃないかと思います。農作物の作り方や知識が豊富なことも大切ですが、それだけではないと思います。」

「挑戦するからこそ、見えない課題も見えてくる。自分の場合は作った農作物を販売するためにあちこちで四苦八苦しながら、一体何が必要なのかという”課題”が見えてきます。これは農業に限らず、人生にも言えることですよね。」

”きれいな水”を守るため自然栽培を普及させる

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現在、首藤さんには西条市の”水問題”を解決したいという大きな目標があります。

「西条の水問題を解決したいんです。解決したいからこそ自然栽培を続けています。農業の肥料が過剰に撒かれ、肥料が硝酸体窒素になって残ることで地下水を汚染するという構造があります。これは農業から肥料のやりすぎを減らすことで解決可能です。」

農業に付きまとう農業資材による健康被害の問題。これらの過剰な散布は、いずれ私たち人間や農作物に必要不可欠な水を汚染してしまうそう。特に西条市は、名水100選にも選ばれた豊富な地下水があることから、この豊かな水が街の誇りとなっています。

「新しく就農した人が農業を自然栽培でやりたいと言った時に、”できる”というロールモデルがある上で受け入れることができたら、自然栽培をする人が増えますよね。そんな人が増えれば西条から肥料が減り、西条の水が守れるという構図なんです。だから私は自然栽培にこだわるし、行政にはもっと支援を求めます。私の自然栽培はどうしても成功する必要があるんです。」

生きもののすべてが恩恵を受ける”きれいな水”。今こそ西条の水を守る取り組みが必要だと語ってくれました。

また、西条市をもっと良くするための構想として、農業に関する制度も改善の余地があると言います。

自然栽培の仲間を集め、信用事業を持たず、農作物の売り買いだけを行う”専門農協”を作りたいと言う首藤さん。その背景には、無農薬で農業をする人達にも有利な施策を打てるような組織力を持つことも大切であるという考えがあります。

自ら作った農作物がお客さんに”美味しい”と喜ばれ、また買いに来てくれるのが嬉しい。ただ工業的に農作物を作るだけでは得られない”喜び”こそ、首藤さんの原動力。

このように様々な取り組みに積極的にチャレンジする首藤さんは、20代から30代の農業者で組織される”4Hクラブ(農業青年クラブ)”の会長という顔も持っています。

全国約850支部、クラブ会員約1万3千人という規模で運営される4Hクラブとは、“日本や世界で貢献できる農業者”を目指し、農業経営を通して農業にとってより良い技術の検討や、地域を取り巻く身近な課題の解決などを行う組織。

「4Hクラブを通した全国での活動は、すごく良い活動だと感じています。この活動のおかげで、日本の農政がどんな想いで活動しているのか、そして農業者に対してどのように考えているのかが見えてきます。」

首藤さんの持つビジョンと行動は、西条市をはじめとする日本の農業全体を改善する大きな一手となりそうです。

(取材協力)

-土と暮らす-